建退共とは、国が建設現場で働く技能者・現場職員のためにつくった退職金共済制度(建設業退職金共済制度)で、事業主が労働者の就労日数に応じた掛金(1日320円)を勤労者退職金共済機構に納め、労働者が事業主を変えても建設業で働いた日数がすべて通算され、退職時に一時金として受け取れる仕組みです。中小企業退職金共済(中退共)と並ぶ特定業種退職金共済のうち、建設業を対象にした国の制度に位置づけられます。
現場で長く働いた職人ほど、事業主ごとの退職金制度に頼らずに一定の退職給付を積み立てられる点が特徴です。一方で、証紙貼付方式と電子申請方式の2ルートがあり、2020年10月の制度改正で電子申請が追加されて以降、CCUS(建設キャリアアップシステム)との連携も進み、事務運用が大きく変わりつつあります。加入していないと経営事項審査(経審)で15点分の加点機会を逃す点も、事業者にとっては軽視できません。
本記事では、施工管理者・現場事務担当・経営層・独立を考える一人親方の4層に向けて、建退共の全体像・加入手続き・掛金の仕組み・退職金の計算方法・電子申請とCCUS連携・経審加点・中退共との違いまでを、一次情報ベースで整理します。
- 先に結論
- この記事で分かること
- 建退共とは|建設業退職金共済制度の全体像
- 建退共の対象事業者・対象労働者
- 掛金の仕組み|日額320円と国補助
- 掛金納付方式の2種類|証紙貼付方式vs電子申請方式
- 電子申請とCCUS連携|手動連携・自動連携
- 加入手続きの流れ|申込から現場運用まで
- 退職金の計算方法|21日=1ヶ月換算と支給要件
- 経営事項審査での加点|W1評点15点と加入履行証明書
- 中退共・企業年金との関係|通算移行ルール
- よくある失敗と対策|手帳未交付・証紙不正・電子未移行
- ケース別解説|大手ゼネコン・一次下請・一人親方・転職者
- 制度接続|担い手3法・2024年問題との関係
- よくある質問(FAQ)
- Q1|建退共の掛金は労働者本人が負担することはないですか?
- Q2|共済手帳をなくしてしまった場合はどうすればいいですか?
- Q3|掛金納付月数が12ヶ月未満で退職した場合、掛金は返還されますか?
- Q4|建退共と中退共は両方に加入できますか?
- Q5|退職金にはどんな税金がかかりますか?
- Q6|経営事項審査での加点は具体的にどのくらいですか?
- Q7|電子申請方式は事業主にとってどんなメリットがありますか?
- Q8|CCUSと建退共の自動連携はどう使えばいいですか?
- Q9|一人親方は建退共に加入できないのですか?
- Q10|派遣社員は建退共の対象になりますか?
- Q11|証紙貼付方式から電子申請方式に切り替えることはできますか?
- Q12|退職金の請求はいつどのようにすればいいですか?
- Q13|建退共は中小企業だけの制度ですか?大手も対象ですか?
- Q14|建退共の加入・履行証明書は何に使うのですか?
- Q15|第三次・担い手3法の全面施行で建退共の運用は変わりますか?
- まとめ
先に結論
- 建退共は、事業主が労働者の就労日数に応じて掛金1日320円(2021年10月改定)を納め、労働者が建設業で働いた日数を全業者通算で退職金化できる、国が運営する退職金共済制度
- 掛金納付方式は「証紙貼付方式(従来)」と「電子申請方式(2020年10月〜追加)」の2ルート。CCUSとのデータ連携で電子申請が推奨されているが、2024年3月時点でも掛金納付の約9割が証紙、電子申請は約1割にとどまる(出典:国土交通省)
- 退職金は21日分を1ヶ月として換算し、掛金納付月数が通算12ヶ月(=252日分)以上で受給要件を満たす。12ヶ月未満は不支給、12ヶ月以上24ヶ月未満のゾーンは短期加入者として掛金相当額を下回る水準となる場合があり、具体額は建退共公式の退職金額表・試算ツールで確認
- 経営事項審査(経審)ではW1評点で最大15点の加点対象。加入・履行証明書(経営事項審査用)の発行が必要で、決算期間内の掛金納付実績が要件
- 建退共と中退共は重複加入できないが、転職時の通算ルール(建退共内の日数通算・建退共⇔中退共の通算申出)で加入月数を持ち運べる
この記事で分かること
- 建退共の全体像(定義・目的・運営組織・根拠法)と、中退共・企業年金との位置関係
- 加入対象となる事業者・労働者の範囲(一人親方の任意組合加入・対象外となる事務職員の切り分けを含む)
- 掛金の仕組み(日額320円・国の掛金補助50日分・損金算入)
- 証紙貼付方式と電子申請方式の違い、CCUS連携(手動連携・自動連携)の実務
- 加入手続き(契約申込書・共済契約者証・共済手帳・現場標識)の流れ
- 退職金の計算方法(21日=1ヶ月換算・受給要件・勤続年数別の目安)
- 経審での加点構造(W1評点15点)と加入・履行証明書の発行手続き
- 施工管理者・現場事務・経営層・一人親方それぞれの実務で押さえるポイント
建退共とは|建設業退職金共済制度の全体像
建退共(けんたいきょう)は、正式名称を「建設業退職金共済制度」といい、独立行政法人勤労者退職金共済機構の建設業退職金共済事業本部が運営する、国の退職金共済制度です。中小企業退職金共済法(中退共法)に定める特定業種退職金共済のうち、建設業を対象にした唯一の制度に位置づけられます。
建退共の定義と目的
建退共は、建設現場で働く技能者や現場職員が、事業主を変えても建設業で働いた日数を通算して退職金として受け取れる仕組みです。事業主が労働者ごとに1日単位の掛金を国に納め、労働者は共済手帳(または電子申請上のデジタル記録)に納付履歴を積み上げていきます。労働者本人に金銭的な負担はありません。
制度の目的は、建設業特有の就労形態(現場ごとに事業主が変わる/日給制・出面ベースの雇用が多い)に合わせて、業界全体で退職金を確保する点にあります。1つの事業主で長期継続雇用が難しくても、業界を通じて働き続けた期間を退職金化できるのが最大の特徴です。
運営組織と根拠法
制度は次の3つの一次情報で整理されます。
- 根拠法:中小企業退職金共済法(1959年制定・改正を経て建設業退職金共済制度を規定)
- 運営組織:独立行政法人勤労者退職金共済機構 建設業退職金共済事業本部
- 所管:厚生労働省(労働基準行政)/国土交通省(建設業の推進政策として連携)
事業主の申込先は各都道府県支部となり、掛金納付・退職金請求などの実務窓口を担います。
中退共・企業年金・企業独自退職金制度との位置関係
企業の退職金制度は、大きく次の4層に整理できます。
| 制度 | 対象 | 掛金負担 | 主な運営 |
|---|---|---|---|
| 建退共 | 建設業で働く現場労働者(技能者・現場職員) | 事業主全額 | 勤労者退職金共済機構 建退共事業本部 |
| 中退共 | 中小企業の従業員(建設業以外含む) | 事業主全額 | 勤労者退職金共済機構 中退共本部 |
| 企業年金(DB/DC) | 加入企業の従業員 | 会社(DB)/会社+本人(DC) | 各企業・金融機関 |
| 企業独自退職金制度 | 加入企業の従業員 | 会社の内部積立 | 各企業 |
建退共は現場労働者向け、中退共は事務職員・管理職を含む従業員全般向けで、同一の労働者が両方に重複加入することはできません。企業年金・企業独自の退職金制度は建退共と併用できるため、大手ゼネコンでは「本社正社員は企業年金+独自退職金/現場技能者は建退共」といった重層的な設計が一般的です(詳細は建設業の退職金相場を参照)。
建退共の対象事業者・対象労働者
建退共は誰でも加入できるわけではなく、対象事業者・対象労働者の範囲が中退共法および運用指針で定められています。
対象事業者
建退共に加入できるのは、建設業を営む事業主です。総合建設業(ゼネコン)・専門工事業(サブコン)・設備工事業・解体業・造園業など、建設業許可の29業種のいずれかに該当する事業主が対象となります。
事業主が建退共に加入するには、建設業退職金共済事業本部またはその都道府県支部に「建設業退職金共済契約申込書」と「建設業退職金共済手帳申込書」を提出します。加入時に事業主に費用はかかりません。掛金は労働者の就労日数に応じて、事業主が国に納める仕組みです。
対象労働者と職種
対象労働者は、建設業の事業主に雇用され、建設現場で働くすべての人です。職種は問わず、次のような幅広い層が対象になります。
- 大工・左官・鳶・土工・鉄筋工・型枠工
- 電工・配管工・塗装工・防水工・タイル工
- 運転工(重機オペレーター)・クレーン運転士
- 現場事務員(現場に配属され現場業務に従事する場合)
- 現場代理人・工長・班長などの役付職員
月給制・日給月給制・日給制のいずれでも対象で、雇用形態や賃金体系による制限はありません。若手からベテランまで、現場で働く労働者を広く受け入れる設計になっています。
一人親方の任意組合加入
一人親方(労働者を雇用せず、単独で建設業に従事する個人事業主)は、原則として建退共の直接加入対象にはなりませんが、任意組合を通じて被共済者になれます。
任意組合は、各都道府県ごとに一人親方の互助組織として設立されており、加入すると事業主も労働者も兼ねる形で建退共に組み込まれます。掛金は原則として一人親方自身が負担しますが、退職金として老後に受け取れるため、老後資金の一部として活用されるケースが多くあります。
一人親方の退職金設計は、建退共任意組合+小規模企業共済+iDeCo(個人型確定拠出年金)の3本柱で組む例が一般的です(独立時の退職金設計は建設業の退職金相場を参照)。
対象外となるケース
次の労働者は建退共の対象外です。
- 建設業に従事していない事業者・労働者(製造業・小売業などは中退共の対象)
- 法人の役員で労働者としての給与を受けていない者
- 建設業の事務職・管理職のみで、現場作業に一切従事しない社員(本社経理・人事など)
- 派遣会社を通じて雇用されている建設作業員(派遣元事業主が中退共など別の退職金制度に加入するのが原則)
本社の事務職員でも、現場に配属されて現場業務に従事する場合は対象になります。逆に、常に本社勤務で現場に出ない社員は、たとえ建設会社の従業員でも建退共の対象外です。
掛金の仕組み|日額320円と国補助
建退共の掛金は事業主が全額負担し、労働者の就労日数に応じて国に納めます。掛金額は法令に基づき国が定めており、事業主が自由に増減することはできません。
掛金額と2021年10月の改定
現行の掛金は1日あたり320円です。2021年10月1日の改定で、それまでの310円から10円引き上げられました。改定履歴は次のとおりです。
| 期間 | 掛金額 |
|---|---|
| 〜2005年9月 | 300円 |
| 2005年10月〜2021年9月 | 310円 |
| 2021年10月〜現在 | 320円 |
労働者が1ヶ月間フルタイム(22日程度)で働けば、事業主は月あたり約7,000円の掛金を負担することになります。
掛金は事業主全額負担
掛金は事業主が全額負担する仕組みで、労働者本人からは徴収できません。労働者の給与から掛金を天引きしたり、労働者に自己負担を求めたりする運用は制度違反になります。
事業主にとっては、労働者1人あたり年間で約8万円前後(就労日数による)の追加負担となりますが、後述の損金算入・経審加点を考えると、実質的な負担は圧縮される設計です。
損金算入と税制メリット
事業主が納付する建退共の掛金は、次の税務上のメリットがあります。
- 法人企業:損金算入が認められる(法人税法施行令第135条)
- 個人事業主:必要経費に算入できる
- 一人親方(任意組合経由):加入形態や掛金の負担者・任意組合の運用によって税務上の扱いが異なるため、税理士または建退共公式案内で個別に確認する
税務上の扱いは中退共と同様に、事業主にとって経費として認められる設計になっています。
新規加入者への国の掛金補助
新たに被共済者となった労働者については、共済手帳の交付時に、国が掛金の一部(初回交付の共済手帳の50日分=320円×50日=16,000円分)を補助します。事業主が新規に労働者を建退共に加入させる際の初期負担を軽減する仕組みです。
50日分の国補助を受けるためには、共済契約者(事業主)と労働者の双方の情報を正しく登録する必要があります。二重加入は補助対象外となるため、新規加入の際は労働者の既加入状況を必ず確認してください。
掛金納付方式の2種類|証紙貼付方式vs電子申請方式
建退共の掛金納付方式には、証紙貼付方式(従来型)と電子申請方式(2020年10月〜追加)の2つがあります。事業主はどちらの方式を選ぶかを決めたうえで、共済契約時にどちらの運用にするかを申請します。
証紙貼付方式(従来)
証紙貼付方式は、1964年の制度創設以来の従来型運用です。次の流れで運用します。
- 事業主が都道府県支部で共済証紙(1日320円の証紙)を購入する
- 労働者に共済手帳を交付する
- 労働者の就労日数分の証紙を、共済手帳の該当ページに貼り付ける
- 消印(事業主印の押印)で貼付を確定する
- 労働者が退職・年齢到達・死亡などで受給要件を満たしたら、共済手帳と退職金請求書を建退共事業本部に提出する
証紙は事業主が事前に購入するため、資金繰りの負担があります。また、証紙紛失・貼り忘れ・二重貼付などの管理リスクがあり、現場での運用工数が大きい方式です。一方で、労働者にとっては共済手帳という物理的な記録が手元に残るため、就労履歴を目視で確認できる安心感があります。
電子申請方式(2020年10月〜追加)
電子申請方式は、2020年10月1日施行の改正中小企業退職金共済法により追加された新方式です。運用の流れは次のとおりです。
- 事業主が建退共電子申請システムに登録する
- あらかじめペイジーまたは口座振替で「退職金ポイント(電子掛金)」を購入する
- 月に一度、共済契約者が現場ごとの労働者の就労日数を電子申請システムに報告する
- 就労日数に応じて退職金ポイントが充当され、掛金として納付される
- 労働者の退職時は、共済手帳(電子申請の場合は電子的な記録)に基づき退職金が請求できる
証紙の購入・貼付・消印・現物管理がすべて不要になり、事務工数が大幅に削減されます。CCUS(建設キャリアアップシステム)との連携により、就業履歴データを取り込んで自動的に掛金納付に反映することも可能で、現場運用の効率化が期待されています。
2方式の比較
| 項目 | 証紙貼付方式 | 電子申請方式 |
|---|---|---|
| 導入時期 | 1964年〜 | 2020年10月〜 |
| 掛金納付手段 | 証紙(1日320円) | 電子掛金ポイント(ペイジー/口座振替で購入) |
| 記録媒体 | 共済手帳(紙) | 電子申請システム上のデータ |
| 事前資金負担 | 証紙の一括購入が必要 | ポイント購入または口座振替 |
| 現場での事務 | 証紙貼付・消印 | 就労日数の電子報告 |
| 管理リスク | 証紙紛失・二重貼付・貼り忘れ | 電子申請の入力ミス |
| CCUS連携 | 不可 | 可能(手動連携・自動連携) |
| 手数料 | なし(証紙額面のみ) | なし(利用料無料) |
| 加入・履行証明書 | 発行可 | 発行可 |
事業主にとっては電子申請の方が事務負担が軽く、CCUSとの連携も含めた将来性が高い方式ですが、現行の運用は移行途上にあります。
現行方式の利用状況(証紙約9割・電子約1割)
国土交通省の資料(CCUSポータル|建退共制度との連携)によると、2024年3月時点で建退共の掛金納付の約9割が証紙貼付方式、電子申請方式は約1割にとどまっています。共済契約者数174.6万社・被共済者数212.3万人という規模のうち、CCUS登録事業者・技能者の中でも建退共加入情報を登録しているのは約3割にとどまり、電子申請への移行余地が大きい状態です。
このため、国交省・建退共事業本部は電子申請への移行を段階的に進めており、CCUSとのデータ連携強化(後述)が2025年9月から自動化される流れになっています。
電子申請とCCUS連携|手動連携・自動連携
電子申請方式では、CCUS(建設キャリアアップシステム)に蓄積された就業履歴を掛金納付に活用できるようになっています。CCUSはICカードによる現場入退場の記録を積み上げる仕組みで、施工管理者や技能者にとっての就業実績のプラットフォームです(詳しくはCCUSとは・メリットを参照)。
電子申請の基本フロー
電子申請方式では、次の月次サイクルで運用します。
- 現場ごとに労働者の就労日数を集計する(CCUS未連携の場合は事業主が手動集計)
- 電子申請システムに就労日数を登録する
- あらかじめ購入しておいた退職金ポイントから、就労日数×320円分が充当される
- 掛金納付履歴が労働者の共済記録に反映される
- 就労日数の証拠として、CCUSの入退場記録・現場報告書・出面表などを保管する
出面(でづら)管理・労務台帳との連携がスムーズになる設計です(出面管理の実務は出面管理とはで解説)。
CCUSとのデータ連携(手動連携・自動連携)
CCUS連携には2つのモードがあります。
| モード | 開始時期 | 運用 |
|---|---|---|
| 手動連携 | 2020年10月〜 | CCUS就業履歴を事業主がダウンロードし、電子申請システムに手動でアップロード |
| 自動連携 | 2025年9月案内〜 | CCUS就業履歴が電子申請システムに自動で連携される方式(元請一括作業方式・一次下請一括作業方式)。最新の提供状況は建退共・国交省の公式案内を確認 |
自動連携は、元請または一次下請が一括で下位下請の労働者分もまとめて申請する方式で、下請事業者の負担を軽減する設計です。国土交通省の建退共電子申請とCCUSのデータ連携(自動連携)マニュアルに運用手順が示されており、実際の適用開始・提供状況は建退共 電子申請方式の最新お知らせで確認してください。
電子掛金ポイントの購入方法
電子申請方式の掛金納付には、事業主があらかじめ退職金ポイント(電子掛金)を購入しておく必要があります。購入方法は次の2つです。
- ペイジー払込:金融機関のATM・インターネットバンキングで払込通知に基づいて振り込み
- 口座振替:事業主の指定口座から自動引き落とし(毎月の残高からポイント充当)
購入したポイントは1日=320円単位で就労日数に応じて充当されます。使用しないポイントは繰越可能で、退職金ポイントの残高管理が電子申請システム上で完結します。
電子申請のメリットとデメリット
事業主・労働者・元請の3者にとって、電子申請には次のようなメリット・デメリットがあります。
- 事業主のメリット:証紙の購入・保管・貼付事務が不要/CCUS連携で就業履歴の自動取込/手数料無料
- 労働者のメリット:掛金納付の徹底(貼り忘れリスク軽減)/退職金請求時の履歴確認がスムーズ
- 元請のメリット:下請の建退共履行状況を可視化しやすい/CCUSレベル判定と連動しやすい
- デメリット:初期のシステム登録・運用移行に手間がかかる/CCUS未登録の現場では効果が限定的/小規模事業者はデジタル対応の負担感がある
加入手続きの流れ|申込から現場運用まで
事業主が建退共に加入する際の流れを、実務ステップで整理します。
1. 建設業退職金共済契約申込書の提出
事業主が最寄りの建退共都道府県支部に、次の書類を提出します。
- 建設業退職金共済契約申込書
- 建設業退職金共済手帳申込書(労働者ごと)
- 建設業許可通知書の写しまたは事業内容が確認できる書類
契約申込書には、事業主の情報・建設業許可番号・雇用する労働者の情報などを記入します。電子申請方式を選ぶ場合は、電子申請の利用申込みも合わせて行います。
2. 共済契約者証と現場標識の交付
契約が成立すると、建退共から次の書類が交付されます。
- 共済契約者証:事業主が建退共の被共済契約者であることを証明する書類
- 現場標識(表示板):建退共加入事業所であることを示す標識で、現場事務所や現場入口に掲示するのが一般的(A3判・A4判のシール様式が用意されています)
現場標識は、労働者に「この現場は建退共加入事業所」であることを知らせる目的があり、公共工事の掲示物運用としても位置づけられます(掲示物の運用全体は建設現場の掲示物・表示板一覧を参照)。
3. 労働者への共済手帳の交付
事業主は、雇用した労働者ごとに共済手帳を交付します。共済手帳は労働者の就労実績を記録する台帳で、次の情報が記載されます。
- 労働者氏名・生年月日・住所
- 被共済者番号
- 加入年月日
- 掛金納付履歴(証紙貼付欄または電子申請の記録)
電子申請方式の場合は、共済手帳の交付は簡略化され、電子申請システム上での記録管理に置き換わります。
4. 掛金納付の実施
証紙貼付方式の場合は、事業主が支部で証紙を購入し、労働者の就労日数に応じて共済手帳に貼付します。電子申請方式の場合は、退職金ポイントを購入したうえで、月次で就労日数を電子申請システムに登録します。
5. 元請一括加入・下請加入の運用
公共工事の元請事業者は、下請事業者の労働者分も含めて建退共の掛金納付状況を確認する責任があります。実務上は次の3パターンで運用されます。
- 元請一括加入方式:元請が下請の労働者分もまとめて掛金を負担・納付し、あとから下請に精算を求める方式
- 下請加入方式:下請事業者が自らの労働者について建退共に加入し、掛金を納付する方式
- 元請一括作業方式(電子申請):CCUS連携により、元請が下請分もまとめて電子申請する方式
公共工事の見積書・請求書では、労務費内訳の一項目として建退共掛金を明示する必要があります(労務費内訳明示の実務は建設業 労務費内訳明示義務を参照)。
6. 加入・履行証明書の発行
経営事項審査(経審)でW1評点の加点を受けるためには、「建設業退職金共済事業加入・履行証明書(経営事項審査用)」を建退共都道府県支部で発行してもらう必要があります。決算期間内の掛金納付実績が要件で、証紙購入または電子申請による納付が確認できることが条件です(詳しくは後述)。
退職金の計算方法|21日=1ヶ月換算と支給要件
労働者が受け取る退職金は、掛金納付月数に応じた支給日数×支給単価で計算されます。建退共の計算方法は独特で、「21日分を1ヶ月として換算する」点が最大のポイントです。
計算の基本ルール(21日=1ヶ月換算)
建退共の退職金計算では、証紙貼付日数(または電子申請による掛金納付日数)を21日単位でまとめて「1月」と換算します。年間就労日数を250日〜260日と見ると、実労1年あたり掛金納付月数は約12〜13ヶ月に相当します。
計算式のイメージ:
- 掛金納付日数(証紙+電子申請の合算)÷21日 = 掛金納付月数
- 掛金納付月数 × 支給単価(勤続に応じた区分別単価)= 退職金額
支給単価は掛金納付月数の区分ごとに定められており、勤続が長くなるほど1ヶ月あたりの単価が上がる仕組みです(長期加入者ほど有利)。
受給要件(12月以上・14月以上)
退職金の支給を受けるには、次のいずれかの状態になったうえで、受給要件を満たす必要があります。
- 退職:建設業をやめて別の業種に転じた/退職した/独立して労働者から事業主になった
- 年齢到達:満55歳以上で建設業界を退職した
- 本人死亡:遺族が請求
受給要件のうち、掛金納付月数が通算12ヶ月(=252日分)以上が最低ラインです。掛金納付月数が12ヶ月未満の場合、退職金は支給されません(掛金相当額の返還もありません)。
掛金納付月数と支給額の関係
掛金納付月数と支給額の関係は、大きく次の3段階に分かれます。
| 掛金納付月数 | 支給の考え方 |
|---|---|
| 12ヶ月未満 | 不支給(掛金相当額の返還もなし) |
| 12ヶ月以上24ヶ月未満 | 短期加入者として支給水準が抑えられる区分(掛金相当額を下回る水準となる場合あり) |
| 24ヶ月以上 | 通常の支給単価による算定(勤続が長いほど有利) |
12〜24ヶ月未満のゾーンは、事業主が納付した掛金に対する支給水準が抑えられる設計です。これは短期加入者の乱発を防ぐ趣旨で、長期就労を前提とした共済制度としての性格を示すルールになります。個別の支給額は必ず建退共 退職金額試算ツールの公式データで確認してください。
勤続年数別の支給額目安
参考として、掛金納付月数(21日=1ヶ月換算)に応じた退職金の目安を整理します。実際の支給額は加入時期・掛金額改定履歴・法令改正で変動するため、必ず建退共 退職金試算の公式ツールで確認してください。
| 掛金納付月数 | 労働年数の目安 | 支給額の水準(参考) |
|---|---|---|
| 24ヶ月 | 約2年 | 数万円〜十数万円 |
| 60ヶ月 | 約5年 | 30〜50万円台 |
| 120ヶ月 | 約10年 | 80〜120万円台 |
| 240ヶ月 | 約20年 | 200〜300万円台 |
| 360ヶ月 | 約30年 | 400〜500万円台 |
上記は建退共事業本部の公式試算ツールで確認できる代表的な水準の参考値で、掛金納付履歴・法改正・加入時期によって変動します。個別の受給額試算は必ず公式ツールで行ってください。
退職金の受け取り方(一時金・分割)
退職金は原則として一時金として一括支給されます。中退共のように分割受給を選ぶ選択肢は制度上限定的で、勤続要件を満たした場合の一括支給が基本設計です。
一時金として受け取った退職金は、税務上「退職所得」として扱われ、勤続年数に応じた退職所得控除が適用されます(国税庁 退職金と税を参照)。控除額は勤続年数によって決まるため、勤続の長い労働者ほど手取りが増える設計です。
経営事項審査での加点|W1評点15点と加入履行証明書
経営事項審査(経審)は、公共工事の入札参加資格を得るための評価制度で、事業者の総合評点(P点)を決める要素の1つに「その他の審査項目(社会性等)=W点」があります。建退共加入・履行はW1評点の1項目として、最大15点の加点対象になっています。
W1評点15点の加点構造
W1評点は、社会性の高い企業活動を評価する項目群で、建退共のほかに次のような項目があります。
- 労働福祉の状況(雇用保険・健康保険・厚生年金保険の加入)
- 建設業退職金共済制度への加入と履行
- 退職一時金制度もしくは企業年金制度の導入
- 法定外労働災害補償制度への加入
- 若年技術者・技能者の育成・確保状況
「建退共の加入・履行」と「退職一時金もしくは企業年金制度の導入」はW1の別々の項目で、それぞれ最大15点ずつ加点対象となる区分です。両方に対応すれば計30点の加点機会があり、公共工事を積極的に受注する事業者にとっては大きな要素です。加点区分・審査基準の最新版は国土交通省 経営事項審査および建退共 経営事項審査についてで必ず確認してください。
経審の総合評点(P点)は上記のW点に加え、完成工事高・技術力・その他の指標を組み合わせて算定します。
加入・履行証明書(経営事項審査用)の様式
経審での加点を受けるには、「建設業退職金共済事業加入・履行証明書(経営事項審査用)」を建退共都道府県支部で発行してもらう必要があります。証明書は次の要件で発行されます。
- 建退共に加入していること(共済契約者であること)
- 決算期間内に、被共済者の就労日数に応じた証紙の購入または電子申請による掛金納付があること
- 履行状況が「加入」「履行」の両方を満たしていること
加入していても、決算期間中の掛金納付実績がないと「未履行」として証明書が発行されず、経審加点が受けられません。
決算期間内の履行要件
履行証明の判定は、事業主の決算期間(1年間)を対象にして行われます。決算月にまとめて証紙を購入して見た目上の履行を装う運用は認められず、被共済者の就労実態に応じた継続的な掛金納付が求められます。
決算月ごとの現場稼働状況と証紙購入・電子申請履歴を整理し、労働者の就労日数と掛金納付日数のバランスが妥当であることを示せるように、日々の記録を残すのが実務のポイントです。
公共工事入札の実務
公共工事の入札参加資格審査では、経審のP点に応じて事業者ランクが決まります。建退共加入・履行証明のW1加点は、P点に反映される要素の1つとして、ランク維持・上位ランクへの昇格に効いてきます。
中小・地場のゼネコン・専門工事業者にとっては、W1の15点はランク境界を左右する要素になることもあり、加入・履行の徹底が経営上の重要事項です。
中退共・企業年金との関係|通算移行ルール
建退共は他の退職金制度と重複できないルールがある一方で、転職時の通算・移行の仕組みが用意されています。
中退共との違い
中退共(中小企業退職金共済)は、建設業以外の中小企業を主対象とする退職金共済制度で、次の点で建退共と異なります。
| 項目 | 建退共 | 中退共 |
|---|---|---|
| 対象事業 | 建設業 | 中小企業(建設業以外含む) |
| 対象労働者 | 現場労働者 | 全従業員 |
| 掛金 | 1日320円(就労日数ベース) | 月額5,000〜30,000円(金額指定) |
| 計算方法 | 21日=1ヶ月・掛金納付月数×単価 | 掛金月額×納付月数×予定運用利回り |
| 掛金納付方式 | 証紙貼付・電子申請 | 口座振替 |
| 経審での扱い | W1で加点対象 | W1で加点対象(別項目) |
中退共は月額固定掛金で、社員が現場に出ない日でも掛金が発生する仕組みです。一方、建退共は就労日数ベースで、稼働日数に応じた掛金だけを納付します。建設業の日給月給や現場稼働の変動に合わせて設計されている点が特徴です。
重複加入は不可
一人の労働者が建退共と中退共に同時加入することはできません。両方の制度の対象となる場合は、どちらか一方に加入する必要があります。
例:本社事務職員として中退共に加入していた社員が現場配属になり、現場業務に従事するようになった場合は、中退共を脱退して建退共に加入する(あるいは中退共を維持したまま現場業務に従事しないよう業務範囲を切り分ける)などの判断が必要です。
転職時の通算ルール
労働者が事業主を変えても、建設業で働いた日数は次のルールで通算されます。
- 建退共内の日数通算:転職先が建退共加入事業者であれば、掛金納付日数は前職から引き継がれます(共済手帳をそのまま持ち運ぶ/電子申請システム上の記録が継続する)
- 中退共への通算申出:建設業から中退共加入企業(建設業以外)に転職した場合、中退共の通算申出制度を使えば、建退共の掛金納付月数を中退共の納付月数と通算できます
- 中退共からの移行:中退共加入企業から建退共加入事業者に転職した場合も、逆方向の通算申出が可能
通算により、労働者は転職しても加入月数を維持でき、退職金の受給要件(12ヶ月以上)の達成が有利になります。
転職時の実務ステップ
労働者が転職する際は、次のステップで通算手続きを行います。
- 転職前の事業主から共済手帳(または電子申請の記録)を受け取る
- 転職先の事業主に共済手帳を提示し、建退共加入事業者であることを確認する
- 転職先事業主が新しい掛金納付をスタート(証紙貼付または電子申請)
- 中退共への移行が必要な場合は、両制度の本部に「通算申出書」を提出する
企業年金DB/DCとの併用
建退共は退職金共済制度に位置づけられ、企業年金(DB:確定給付企業年金/DC:確定拠出年金)とは制度上別枠です。同一労働者が建退共と企業年金に同時加入することは可能で、大手ゼネコンでは現場技能者向けの建退共と、本社正社員向けの企業年金を併存させる設計が一般的です。
企業年金は労働者本人も掛金を負担する場合(DCの個人掛金)があるのに対し、建退共は事業主全額負担である点が実務上の使い分けポイントになります。
よくある失敗と対策|手帳未交付・証紙不正・電子未移行
建退共の運用で、事業主・労働者ともに陥りがちな失敗パターンを5つ整理します。
失敗1|共済手帳が労働者に交付されていない
事業主が建退共に加入したものの、労働者に共済手帳が交付されていないケースがあります。証紙が事業主の金庫に眠ったまま、労働者が退職時に「建退共に入っていた」と気づかないパターンです。
対策:加入と同時に労働者に共済手帳を交付し、労働者本人にも「建退共に加入していること」を必ず伝える。可能であれば労働者に手帳を持ち帰ってもらう。電子申請方式なら記録は電子的に残るため、労働者にはIDやマイページの案内をする。
失敗2|証紙の貼り忘れ・二重貼付・貼付漏れ
証紙貼付方式では、労働者の就労日数を過小に貼付する(貼り忘れ)、逆に二重に貼付するなどのミスが発生します。決算期のまとめ貼りは経審の履行証明で否認されるリスクがあります。
対策:日々の出面表(出面管理)と証紙貼付の突合を月次で実施。電子申請方式への切り替えを検討する。
失敗3|対象外労働者への誤加入
建退共は「現場作業に従事する労働者」が対象で、本社事務職員や派遣労働者は対象外です。誤って対象外労働者を加入させると、掛金納付が無効になったり、経審の履行証明で否認される可能性があります。
対策:加入時に労働者の業務内容を確認し、対象範囲を明確化する。派遣労働者は派遣元事業主の退職金制度が適用されるため、派遣先事業主が建退共に加入させることはしない。
失敗4|電子申請への移行遅れ
証紙貼付方式のまま運用を続けると、CCUSとの連携ができず、下請一括作業方式の効率化メリットも受けられません。元請から電子申請への切り替えを求められることも増えています。
対策:CCUS登録済みの現場から段階的に電子申請方式に移行する。手動連携→自動連携(2025年9月〜)とステップアップする。
失敗5|退職金請求の期限管理
退職金請求権は労働者の退職・年齢到達・死亡から一定期間内に行使する必要があります。放置すると請求権が時効消滅するケースがあります。
対策:労働者本人・遺族が退職時に速やかに請求手続きを行えるよう、事業主から共済手帳と請求案内を確実に渡す。労働者本人が請求方法を理解できる資料を配布する。
ケース別解説|大手ゼネコン・一次下請・一人親方・転職者
建退共の運用は、事業者・労働者の立場によって具体的なアクションが変わります。4つの典型ケースで整理します。
ケース1|大手ゼネコン(元請)の場合
大手ゼネコンは、自社の直接雇用労働者だけでなく、下請事業者の労働者分についても建退共の加入・履行状況を確認する立場にあります。実務のポイントは次のとおりです。
- 自社の現場労働者(現場代理人・工長など)は本社の企業年金+独自退職金+建退共の3層で退職給付を設計する
- 下請事業者に対しては、建退共加入の有無を工事着工前に確認する
- 元請一括加入方式または元請一括作業方式(電子申請)で下請分もまとめて申請するケースが増えている
- CCUSとの自動連携を推進し、下請の負担軽減とデータ透明化を両立させる
- 経審のW1加点はもちろん、公共工事の入札参加資格でランク維持に不可欠
大手ゼネコンでは、建退共の運用をコンプライアンス・調達管理・CCUS推進の一環として位置づけ、専任担当者が管理する体制が一般的です。
ケース2|一次下請(専門工事業者)の場合
一次下請の専門工事業者(サブコン)は、自社労働者について建退共加入を維持しつつ、元請から求められる履行状況の確認に応じる必要があります。
- 自社労働者の建退共加入・掛金納付を月次で徹底する
- 元請から電子申請方式への切り替えを求められることが増えているため、段階的な移行を計画する
- 二次下請以下がある場合、建退共加入状況を確認する立場にもなる
- 経審のW1加点で15点を確保し、公共工事入札のランク維持を狙う
- 転職者が入社した場合は、共済手帳の引継ぎを確認する
一次下請では、建退共の運用が労務費原価に直接影響するため、掛金納付コストと事務工数のバランスをどうとるかが経営判断のポイントになります。
ケース3|一人親方(独立系職人)の場合
一人親方は、建退共の直接加入対象ではありませんが、任意組合を通じて被共済者になれます。
- 都道府県ごとの一人親方任意組合を確認し、加入手続きを行う
- 掛金は自己負担(1日320円×稼働日数)だが、退職金として将来受け取れる
- 小規模企業共済+iDeCoと組み合わせて、老後資金の3本柱を構築する
- 経審は自身が事業主として受審する場合、W1で加点対象になる
- 建設業から退いた際に、掛金納付月数12ヶ月以上を満たしていれば退職金を請求できる
一人親方にとっての建退共は、老後資金対策の1つであると同時に、事業主として建退共に加入している事実を発注元にアピールする材料にもなります。
ケース4|転職者(労働者側)の場合
建設業内で事業主を変える転職、または建設業から他業種に転職する労働者は、通算ルールを活用して加入月数を維持することが重要です。
- 転職前の事業主から共済手帳(電子申請の記録)を必ず受け取る
- 転職先が建退共加入事業者であれば、共済手帳を提示して掛金納付を継続してもらう
- 転職先が建退共未加入の建設業者であれば、加入交渉を行うか、通算申出の必要性を確認する
- 建設業から他業種に転じ、転職先が中退共加入企業であれば、中退共への通算申出を検討する
- 55歳以上で建設業界を離れる場合は、退職金請求権があるか確認する
転職時期・タイミングの判断は施工管理の転職 時期・タイミングでも扱っており、退職金の受給要件を意識して転職を設計する視点が有効です。
制度接続|担い手3法・2024年問題との関係
建退共は単体の制度としてだけでなく、建設業を取り巻く政策全体(担い手3法・2024年問題・CCUS推進)の一部として位置づけられます。
第三次・担い手3法との関係
第三次・担い手3法(建設業法・入札契約適正化法・品確法の一体改正)は、2024年6月に公布され、2025年12月12日に全面施行されました。労務費の基準・処遇改善が3本柱の1つに位置づけられ、労務費内訳明示義務や標準労務費の運用が始まっています(詳細は建設業 労務費内訳明示義務)。
労務費内訳の一項目として建退共掛金を明示する運用も広がっており、事業者・下請の適正な建退共履行がより求められる方向にあります。制度の最新運用は国土交通省 第三次・担い手3法で最新資料を確認してください。
2024年問題(時間外労働上限規制)との関係
2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています。原則は月45時間/年360時間、特別条項付き36協定がある場合でも年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満/複数月平均80時間以内が上限です。違反企業には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制」)。なお、災害復旧・復興工事には一部の制限緩和特例があります。
労働時間の適正化に伴い、労働者の稼働日数の記録がより厳密に求められるようになりました。建退共の掛金納付日数と労働時間記録の整合性を保つことが、労務管理の実務上の重要ポイントです。
4週8閉所と個人休日の区別
日本建設業連合会が推進する4週8閉所(4週間で8日間の現場閉所)は、あくまで現場閉所日数の指標であり、労働者個人の休日とは別概念です。労働者個人の稼働日数は労働契約と現場配属に応じて決まり、建退共の掛金納付は稼働日ベースで算定されます。
CCUS推進との関係
CCUSは技能者の就業履歴と能力評価を蓄積する仕組みで、2024年3月時点で技能者登録181.8万人・事業者登録30.9万社の規模に達しています(出典:国土交通省 CCUS)。CCUSと建退共の連携で、就業履歴を自動で掛金納付に反映する運用が広がりつつあり、電子申請への移行が加速する政策的な追い風があります。
よくある質問(FAQ)
Q1|建退共の掛金は労働者本人が負担することはないですか?
はい、建退共の掛金は事業主が全額負担する仕組みで、労働者本人からは徴収できません。給与から掛金を天引きする運用は制度違反になります。事業主が労働者の稼働日数に応じて1日320円を国に納める仕組みです。
Q2|共済手帳をなくしてしまった場合はどうすればいいですか?
紛失した場合は、建退共事業本部または都道府県支部に「共済手帳再交付申請書」を提出することで、再交付を受けられます。被共済者番号がわかれば掛金納付履歴は建退共側でデータ管理されているため、履歴は失われません。
Q3|掛金納付月数が12ヶ月未満で退職した場合、掛金は返還されますか?
いいえ、掛金納付月数が12ヶ月未満で退職した場合は、退職金は支給されず、掛金相当額の返還もありません。12ヶ月以上24ヶ月未満のゾーンでは、掛金相当額の3〜5割程度が支給されます。長期加入者ほど有利な設計になっているため、短期での退職は不利です。
Q4|建退共と中退共は両方に加入できますか?
同一労働者が建退共と中退共に重複加入することはできません。建設業の現場労働者は建退共、それ以外の業種の従業員は中退共と、対象範囲が明確に区分されています。転職時の通算申出制度を使えば、建退共から中退共への通算・逆方向の通算が可能です。
Q5|退職金にはどんな税金がかかりますか?
建退共の退職金は税務上「退職所得」として扱われ、勤続年数に応じた退職所得控除が適用されます。控除額は勤続20年以下で1年あたり40万円、20年超で1年あたり70万円が目安です(国税庁 退職金と税)。勤続の長い労働者ほど税制優遇が大きくなります。
Q6|経営事項審査での加点は具体的にどのくらいですか?
経審のW1評点で、建退共の加入・履行は最大15点の加点対象になります。「退職一時金もしくは企業年金制度の導入」は別の項目で、これも最大15点。両方に対応すれば計30点の加点機会があります。詳細は国土交通省 経営事項審査を参照してください。
Q7|電子申請方式は事業主にとってどんなメリットがありますか?
証紙の購入・保管・貼付・消印などの物理的な事務が不要になり、事務工数が大幅に削減されます。CCUS就業履歴との連携で、就労日数の自動取込が可能です。利用料は無料で、口座振替による自動的な掛金納付ができるため、資金繰り管理もしやすくなります。
Q8|CCUSと建退共の自動連携はどう使えばいいですか?
2025年9月から、CCUS就業履歴を建退共電子申請システムに自動で連携するモード(元請一括作業方式・一次下請一括作業方式)が利用できるようになりました。運用手順は建退共電子申請とCCUSのデータ連携マニュアルで公開されています。元請が下請分もまとめて申請することで、下請事業者の負担を軽減できます。
Q9|一人親方は建退共に加入できないのですか?
一人親方は建退共の直接加入対象ではありませんが、各都道府県の一人親方任意組合を通じて被共済者になれます。掛金は自己負担ですが、退職金として老後に受け取れます。小規模企業共済・iDeCoと組み合わせた退職金設計が実務上の選択肢になります。
Q10|派遣社員は建退共の対象になりますか?
派遣会社を通じて雇用されている建設作業員は、原則として建退共の対象外です。派遣元事業主が中退共などの退職金制度に加入するのが基本的な運用になります。
Q11|証紙貼付方式から電子申請方式に切り替えることはできますか?
はい、事業主の判断で切り替えが可能です。切り替えの手続きは建退共都道府県支部に相談してください。既存の証紙貼付分と電子申請の掛金納付履歴は合算されて労働者の記録に反映されます。
Q12|退職金の請求はいつどのようにすればいいですか?
労働者が退職・年齢到達(55歳以上)・死亡などの受給要件を満たしたら、共済手帳と退職金請求書を建退共事業本部に提出します。請求書には本人確認書類・振込口座情報などの必要事項を記入します。実際の支払いまでは通常1〜2ヶ月程度かかります。
Q13|建退共は中小企業だけの制度ですか?大手も対象ですか?
建退共は事業規模による制限がなく、大手ゼネコンから中小の専門工事業者まで幅広く対象です。ただし、対象労働者は「現場作業に従事する労働者」に限られるため、大手ゼネコンの本社正社員(現場に出ない事務職・管理職)は対象外です。
Q14|建退共の加入・履行証明書は何に使うのですか?
主な用途は経営事項審査(経審)での加点申請です。ほかにも、公共工事の入札参加資格審査、下請契約時の元請への提出、労働者・遺族への退職金請求などで使われます。決算期間内の掛金納付実績が発行要件です。
Q15|第三次・担い手3法の全面施行で建退共の運用は変わりますか?
第三次・担い手3法(2025年12月12日全面施行)では、労務費の基準・処遇改善が3本柱の1つに位置づけられ、労務費内訳明示義務の運用が始まっています。労務費内訳の一項目として建退共掛金を明示する運用が広がっており、事業者・下請の適正な建退共履行がより求められる方向にあります。最新の運用細則は国土交通省 第三次・担い手3法で確認してください。
まとめ
建退共(建設業退職金共済制度)は、建設現場で働く技能者・現場職員が事業主を変えても業界通算で退職金を積み立てられる、国が運営する退職金共済制度です。制度理解・実務運用のポイントを最後に整理します。
- 建退共の掛金は事業主が労働者の稼働日数に応じて1日320円を国に納める仕組み。労働者本人の負担はゼロ
- 掛金納付方式は「証紙貼付方式(従来)」と「電子申請方式(2020年10月〜)」の2ルート。CCUS連携により電子申請が今後の主流になる方向
- 退職金は21日=1ヶ月換算で計算され、掛金納付月数12ヶ月以上で受給要件を満たす。12ヶ月未満は不支給
- 経営事項審査(経審)ではW1評点で最大15点の加点対象。加入・履行証明書の発行が必要
- 中退共・企業年金DB/DCとの重複ルールを理解し、転職時の通算申出制度を活用することで、労働者は加入月数を維持できる
事業者にとっては、建退共の加入・履行は労務コストと経審加点のバランスを取る経営判断の一部です。労働者・一人親方にとっては、老後資金の1本柱として、退職金の受給要件と通算ルールを押さえておくことが重要になります。
自分の勤務先が建退共に加入しているかわからない、あるいは今後の転職・独立で退職金設計を見直したい方は、タテルートのキャリア相談(LINE)で情報整理する選択肢もあります。建設業のキャリア設計は、資格・年収・退職金を含めた総合的な視点で組むと、長期的な安心感につながります。
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