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実行予算の作り方7ステップ|建設業の積算との違い・内訳を解説

実行予算の作り方7ステップ|建設業の積算との違い・内訳を解説

実行予算とは、工事を受注したあと、現場ごとに必要な原価(材料費・労務費・外注費・機械経費・現場管理費など)を積み上げ、契約金額の範囲内で目標利益を確保するための原価計画です。積算が「受注のための価格計算」であるのに対し、実行予算は「利益を出すための実務計画」であり、着工前の意思決定と、着工後の予算実績管理(予実管理)の両方の基準になります。

「初めて実行予算を任されたが、何をどこから積むのか分からない」「積算と実行予算の違いをうまく説明できない」「作った実行予算が竣工時にいつも赤字に近づいている」——現場代理人や若手施工管理職の多くが最初につまずくポイントです。加えて、改正建設業法(第三次・担い手3法)では「労務費に関する基準(標準労務費)」の枠組みが導入され、実行予算の労務費の組み方にも実務上の影響が及んでいます。改正内容は項目ごとに施行時期・適用範囲が異なるため、詳細は必ず国土交通省の一次資料で確認してください。

本記事では、実行予算の定義と役割・積算/見積との違い・内訳(直接工事費/間接工事費/現場管理費/一般管理費)・作成7ステップ・精度を上げるポイント・改正建設業法の実務対応・失敗回避チェックリストまでを、初めての現場代理人でも組める手順に整理してお届けします。

  1. 先に結論
  2. この記事で分かること
  3. 実行予算とは|定義と役割の整理
    1. 実行予算の目的は「利益を出すための計画」
    2. 誰が・いつ・何のために作るか
    3. 実行予算と関連用語の違い(積算・見積・基本予算・原価)
  4. 実行予算書の内訳|3階層で整理する
    1. 直接工事費(工事に直接かかる費用)
    2. 間接工事費(現場全体で共通に発生する費用)
    3. 一般管理費(本社経費)
    4. 予備費・リスク係数
  5. 実行予算の作り方7ステップ
    1. ステップ1|設計図書・仕様書・契約図書の徹底読み込み
    2. ステップ2|工程・工期の計画と工区分割
    3. ステップ3|数量拾い(数量算出)
    4. ステップ4|単価設定と見積比較
    5. ステップ5|共通仮設費・現場管理費・予備費の計上
    6. ステップ6|社内承認・登録
    7. ステップ7|着工後の予実管理と改訂
  6. 実行予算の精度を上げる7つの実務ポイント
    1. ポイント1|過去の類似現場データを標準化する
    2. ポイント2|設計数量と所要数量のギャップを数値化する
    3. ポイント3|歩掛(ぶがかり)を最新化する
    4. ポイント4|単価トレンドを継続監視する
    5. ポイント5|協力会社との単価交渉ルートを持つ
    6. ポイント6|予備費・コンティンジェンシーを必ず確保する
    7. ポイント7|月次で予実レビューを回す
  7. 改正建設業法(第三次・担い手3法)と実行予算への実務影響
    1. 標準労務費(労務費に関する基準)の導入
    2. 工事費内訳書の明示3項目(法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金)
    3. 労務費のしわ寄せ防止
  8. 実行予算の失敗パターン7つと回避チェックリスト
    1. 失敗1|設計図書の読み込みが浅い
    2. 失敗2|数量拾いを設計数量のままで組む
    3. 失敗3|単価が古い
    4. 失敗4|相見積を取らずに単価を決める
    5. 失敗5|予備費を確保しない
    6. 失敗6|予実管理をしていない
    7. 失敗7|追加変更工事の予算を別立てにしない
  9. ケース別|工種・規模で異なる実行予算のポイント
    1. 新築建築(RC造・S造)
    2. 土木工事(公共工事中心)
    3. リフォーム・改修工事
    4. 中小工務店・地場建設会社
  10. 実行予算スキルはキャリアにどう効くか
    1. 現場代理人・監理技術者への登用が早まる
    2. 転職市場での評価が上がる
    3. 独立・フリーランスの選択肢が広がる
    4. 実行予算スキルの延長線にある資格・スキル
  11. よくある質問(FAQ)
    1. Q1|実行予算は誰が作りますか?
    2. Q2|積算と実行予算はどこが違いますか?
    3. Q3|実行予算はいつまでに完成させるべきですか?
    4. Q4|実行予算はエクセルとソフトのどちらで作るべきですか?
    5. Q5|予備費は何%くらい取るべきですか?
    6. Q6|実行予算と原価管理はどう違いますか?
    7. Q7|設計変更が入ったらどうすべきですか?
    8. Q8|実行予算の目標粗利率はどのくらいですか?
    9. Q9|若手で実行予算を任されました。まず何から手をつければいいですか?
    10. Q10|改正建設業法(標準労務費)で実行予算はどう変わりますか?
    11. Q11|実行予算はどのくらいの頻度で更新(改訂)しますか?
    12. Q12|サブコン・専門工事会社でも実行予算は作りますか?
    13. Q13|経審(経営事項審査)と実行予算に関係はありますか?
  12. まとめ
    1. 年収・転職でお悩みの方へ

先に結論

  • 実行予算とは、工事受注後に組む「現場ごとの原価計画」であり、積算(受注時の価格計算)とは目的が異なる
  • 内訳は直接工事費(材料費・労務費・直接経費)+間接工事費(共通仮設費・現場管理費)+一般管理費の3階層で整理する
  • 作成は着工前までに完成させ、社内決裁を経て利益目標を確定させるのが実務の基本
  • 精度を上げる鍵は「設計数量と所要数量は一致しない」を前提に、過去実績の歩掛・材料ロス率・単価トレンドを反映すること
  • 改正建設業法の標準労務費・工事費内訳書の明示3項目(法定福利費/安全衛生経費/建退共掛金)は、実行予算の積み方に反映する余地がある(詳細は最新の一次資料を参照)

この記事で分かること

  • 実行予算・積算・見積・基本予算・原価の違いと使い分け
  • 実行予算書の内訳(直接工事費/間接工事費/現場管理費/一般管理費)の具体構成
  • 着工前・着工後・竣工後の3フェーズで何をするか
  • 実行予算作成の7ステップ(設計図書精査→数量拾い→単価・見積→予備費→承認)
  • 精度を上げる7つの実務ポイント(歩掛・ロス率・単価トレンドなど)
  • 改正建設業法の「標準労務費」「工事費内訳書の明示3項目」への実務対応の考え方
  • 失敗パターン7つと回避チェックリスト
  • 実行予算スキルが施工管理のキャリアにどう効いてくるか

実行予算とは|定義と役割の整理

実行予算とは、工事を受注したあとに現場ごとに作成する詳細な原価計画を指します。契約金額(請負金額)を上限として、材料費・労務費・外注費・機械経費・現場管理費などを積み上げ、目標利益を確保できる予算配分を決めます。

実行予算の目的は「利益を出すための計画」

積算・見積は「発注者に提示するための価格を決める作業」ですが、実行予算は「利益を確保するための実務計画」です。同じ工事でも、積算段階では網羅性・入札適合性が優先され、実行予算段階では「どの資材をどの単価で、いつ発注するか」「どの職種を何人日投入するか」といった実行可能性が優先されます。

実行予算と原価管理の精度は、現場責任者の評価項目になりやすい実務能力の1つです。所長登用や本社異動のプロセスは会社によって異なるため、自社の評価軸は上長と個別に確認してください(施工管理職全般のキャリアの流れは施工管理のキャリアパスを参照)。

誰が・いつ・何のために作るか

項目 内容
作成者 現場代理人(現場所長)が中心。若手施工管理・工事課の応援を受ける
作成タイミング 契約締結後〜着工前までに完成させるのが基本
承認者 支店長・工事部長・経理部門など社内決裁ルートで承認
目的 目標利益の確定/購買・外注の発注基準/予実管理の基準/竣工後の実績分析原資

一般的には、契約直後〜着工前に完成させ、社内決裁を得ることで初めて現場の利益目標が確定するとされます(出典:実行予算の組み方とは?(any-one)実行予算とは?(マネーフォワード クラウド))。着工後に作成すると、資材の発注価格や人員配置の最適化が後手に回り、利益確保が難しくなります。

実行予算と関連用語の違い(積算・見積・基本予算・原価)

現場でよく混同される用語を整理します。

用語 目的 タイミング 主な作成者
積算 設計図書・仕様書から工事費(材料費・労務費・機械経費など)を計算 入札・見積前 積算部門・積算担当
見積 積算に諸経費・利益を加えて発注者に提示する価格を決める 入札・見積時 営業・見積担当
基本予算 受注確度が上がった段階での概算予算(社内目標値) 契約前後 工事部・営業
実行予算 現場ごとの詳細な原価計画(利益を出すための計画) 契約後・着工前 現場代理人
原価(実際原価) 工事の進行中に実際に発生した費用 着工中・竣工時 現場代理人・経理

積算に利益を加えたものが見積、契約後にそれを「現場で回せる原価計画」に組み替えたものが実行予算、実際に発生したのが原価という関係です(参考:実行予算と積算の違い(蔵衛門.com))。

実行予算書の内訳|3階層で整理する

以下は、実行予算を組む際の社内管理上の一般的な整理例です。公共工事の積算基準や会社の会計上の勘定科目区分とは、名称・範囲・粒度が異なる場合があります。会社の標準テンプレートがある場合は、まずそちらの費目立てに従ってください。

直接工事費(工事に直接かかる費用)

直接工事費は、工事に直接発生する費用で、材料費・労務費・直接経費から構成されます(参考:直接工事費とは?(プロワン))。

  • 材料費:コンクリート・鉄筋・型枠材・木材・仕上材・設備機器など、現場に持ち込む資材の費用
  • 労務費:自社の直接雇用作業員・技能労働者の賃金・社会保険料・福利厚生費
  • 直接経費:現場で直接使う機械リース料・仮設材リース料・現場運搬費・光熱費など
  • 外注費:専門工事会社への発注費(下請契約に基づく施工費用)

外注費は、会社によっては直接工事費とは別立てで「外注費」として独立管理する場合もあります。「建設業では労務費と外注費の切り分け方が会社によって異なる」点は、実行予算を新しい現場・会社で組むときに必ず確認しておく項目です。

間接工事費(現場全体で共通に発生する費用)

間接工事費は「共通仮設費」と「現場管理費」に大別されます。

区分 主な項目
共通仮設費 仮囲い・仮設事務所・仮設トイレ・仮設電力・水道・安全設備・清掃費など
現場管理費 現場代理人・監理技術者・主任技術者の給与・現場事務員・通信費・打合せ費・車両費・保険料など

現場管理費は、現場全体を運営する管理者側の人件費・経費であり、「工事に直接触れないが、現場を回すために必要な費用」に位置付けられます。工程が長引いたり、施工中に体制強化が必要になったりすると膨らみやすい領域です。

一般管理費(本社経費)

一般管理費は本社の共通費(役員報酬・本社事務所賃借料・本社スタッフ人件費・広告宣伝費など)で、多くの会社では請負金額から一定率を差し引く形で本社に配賦されます。現場側の実行予算では、この配賦率を差し引いた残りが「現場で回せる原価枠」になります。

予備費・リスク係数

上記の他に、予備費(コンティンジェンシー)を計上するのが一般的です。天候不順・資材高騰・追加変更・手戻り・災害対応など、予測しきれない事象への備えです。予備費の持ち方(率・上限額・使用ルール)は会社方針や工事特性によって異なるため、社内基準や過去現場の実績で確認してください。予備費なしで実行予算を組むと、想定外事象1つで採算が崩れやすくなります。

実行予算の作り方7ステップ

ここからが本題です。初めて現場代理人として実行予算を任されたときにも、以下の7ステップで進めれば大きく外しません。

ステップ1|設計図書・仕様書・契約図書の徹底読み込み

まず、以下の一次資料をすべて手に取り、余白にメモを書き込みながら読みます。

  • 設計図(意匠図・構造図・設備図・電気図・外構図)
  • 特記仕様書・共通仕様書
  • 現場説明書・質疑応答書
  • 契約書・約款・工事内訳書(発注者提出書式)

このステップで拾うのは「工事範囲」「品質グレード」「工期」「支給品/指定品の有無」「発注者要求(例:BIM/CIM 対応、快適トイレの水準)」の5点セットです。ここを疎かにすると、あとで数量拾いや単価入力の前提がぐらつき、大きな見落としに繋がります。

施工計画書と実行予算はセットで作ると精度が上がります。詳細は施工計画書の書き方を参照してください。

ステップ2|工程・工期の計画と工区分割

次に、大まかな工程計画(バーチャート/ネットワーク工程表)を作り、工事を工区・工種・作業単位に分割します。この分割単位が、そのまま実行予算の予算コード(原価科目)になります。

分割の目安は以下です。

  • 工種別(土工/躯体/仕上/設備/外構)
  • 工区別(1階/2階/地下/棟別)
  • 発注先別(自社施工/協力会社A/協力会社B)
  • 費目別(材料/労務/外注/機械/経費)

この分割設計がしっかりしていると、後工程の数量拾い・見積比較・予実管理が一気に楽になります。逆にここが雑だと、竣工後に「どこで赤字が出たのか分からない」状態になります。

ステップ3|数量拾い(数量算出)

設計図書から工種ごとに数量を拾います。ここでは「設計数量と所要数量は一致しない」という前提を必ず置いてください。

  • 設計数量:設計図書に示された仕上がり寸法から算出した数量
  • 所要数量:施工上必要となる数量(ロス・切り代・端材・重ね代を含む)

材料ごとに標準的なロス率(鉄筋3〜5%、型枠2〜3%、生コン数%など、会社の標準率を確認)を反映させないと、着工後に材料不足→追加発注→予算オーバーが発生します。

ステップ4|単価設定と見積比較

数量が固まったら、費目ごとに単価を入れて費用を確定させます。

  • 材料費:自社の実勢購買単価/協力購買会(メーカー・商社)の見積を複数取り、比較のうえ確定
  • 労務費:職種ごとの日当(人日単価)× 想定人日数。改正建設業法の標準労務費の考え方に沿って設計(後述)
  • 外注費:協力会社複数社に見積依頼し、金額・実績・体制・単価内訳を比較
  • 機械経費:レンタル・リース単価 × 使用月数
  • 経費:現場管理費・共通仮設費は過去現場の実績比率と、当該現場の特殊性を反映

「相見積は最低3社」「単価は当該現場の直近3〜6か月の実勢を基準」が実務の目安です。物価変動が激しい時期(近年は資材・人件費の上昇局面)は、単価の取り直しタイミングも決めておきます。

ステップ5|共通仮設費・現場管理費・予備費の計上

直接工事費が固まったら、共通仮設費・現場管理費・予備費を積みます。

  • 共通仮設費:現場面積・工期・階数・立地から算定。過去現場の比率と当該現場の特殊性(狭あい/夜間工事/都心/地方など)を反映
  • 現場管理費:配置予定の技術者(監理技術者・主任技術者・現場代理人・工事担当)の給与相当額 × 現場配属月数。快適トイレ(国土交通省 快適トイレ)や女性用設備など、発注者要求水準を必ず確認
  • 予備費:工事規模・リスク特性に応じて数%〜10%を確保

ステップ6|社内承認・登録

積み上がった実行予算書を、社内の承認ルート(支店長・工事部長・経理・原価管理部門など)に回して承認を得ます。承認を通ったタイミングで、その予算が「現場の目標値」として確定します。

大手・準大手では、実行予算の目標粗利率(目標粗利益率)が定められている会社が多く、その水準に届かない場合はステップ2〜5に戻って再検討します(コスト削減の余地、工程短縮、代替仕様の提案など)。

ステップ7|着工後の予実管理と改訂

実行予算は「作って終わり」ではなく、着工後の予実管理(予算実績管理)の基準として使い続けます。

  • 月次で工事原価を集計し、費目別・工種別に予算対実績を比較
  • 差異(差額)が想定を超えたら、原因分析→是正措置→必要に応じて実行予算の改訂
  • 追加変更工事が発生したら、追加分の実行予算を別立てで作成

予実の乖離が拡大していることに気づくのが遅れると、竣工時点で赤字が確定します。月次サイクル、可能なら旬次・週次のモニタリングを回すのが望ましい実務です。

実行予算の精度を上げる7つの実務ポイント

実行予算の精度は、そのまま現場の利益率を左右します。ベテラン所長が意識している実務ポイントを整理します。

ポイント1|過去の類似現場データを標準化する

過去に手掛けた類似規模・類似工種の現場の実行予算・実際原価データは、次の現場の最も価値ある参考情報です。RC造の共同住宅、S造の物流倉庫、木造戸建てなど、工種・構造・規模別に「標準原価テーブル」を整備している会社は、実行予算の精度が高い傾向にあります。

ポイント2|設計数量と所要数量のギャップを数値化する

材料ごとにロス率・端材率・重ね代率を数値化し、標準値を整備します。これを整備できていない現場は、着工後の資材追加発注が常態化しがちです。

ポイント3|歩掛(ぶがかり)を最新化する

歩掛とは「単位施工量あたりに必要な人日(または機械日)」の目安値で、労務費と機械経費の精度に直結します。改正建設業法・標準労務費の運用方針では、不当に低い労務費や実態に合わない歩掛の設定は、基準の趣旨に反し是正指導等の対象になり得ると整理されており、実勢に即した歩掛設定が求められています(出典:国土交通省 労務費の基準の運用方針国土交通省 建設業法改正)。

ポイント4|単価トレンドを継続監視する

資材単価・人件費・機械経費は、時期によって数%〜十数%変動します。実行予算作成時点で「直近3〜6か月の実勢」を基準にしつつ、長期の工事では途中改訂を織り込みます。

ポイント5|協力会社との単価交渉ルートを持つ

外注費は実行予算の中でもっとも比重が大きい項目の1つです。複数の協力会社との継続的な関係、単価内訳の見える化、支払条件の整備が、単価交渉の余地を作ります。

ポイント6|予備費・コンティンジェンシーを必ず確保する

予備費なしの実行予算は「一度も想定外事象が起こらない前提の予算」であり、実務ではほぼ成立しません。工事の規模・工期・立地・発注者特性に応じて、数%〜10%の予備費を確保します。

ポイント7|月次で予実レビューを回す

作成後の予実管理サイクルは、そのまま利益確保の要です。月次で費目別・工種別に予算対実績を比較し、差異が拡大している費目は原因分析と是正を回します。予実管理は現場代理人1人の作業ではなく、現場担当・工事課・経理・購買を巻き込むチーム作業として設計するのが実務です。

改正建設業法(第三次・担い手3法)と実行予算への実務影響

改正建設業法(第三次・担い手3法)では、実行予算の労務費の組み方に関わる複数の制度改正が段階的に進んでいます。改正内容は項目ごとに施行時期・適用範囲・運用が異なり、詳細ルールも順次整備・更新中のため、実行予算に反映する前に必ず国土交通省の一次資料で最新の要件を確認してください。以下は、実行予算の実務者が押さえておくべき論点の整理です。

標準労務費(労務費に関する基準)の導入

中央建設業審議会が「労務費に関する基準」を作成・勧告する仕組みが導入され、職種・技能レベルごとの「支払われるべき賃金の基準額」が示されます(出典:国土交通省 労務費の基準の運用方針改正建設業法に基づく「労務費の基準」について(PwC))。

  • 適正な労務費は「公共工事設計労務単価 × 施工条件等に照らして適正な歩掛」× 施工量 で算出される考え方
  • 不当に低い労務費や実態に合わない歩掛を前提にした労務費計上・単価要求は、基準の趣旨に反し是正指導等の対象となり得る旨が運用方針で示されている
  • 実行予算段階で「設計労務単価と実勢単価の乖離」「歩掛の妥当性」を確認する運用が推奨される

工事費内訳書の明示3項目(法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金)

改正建設業法・入契法施行規則の改正に伴い、工事費内訳書に法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金の3項目を明示することが求められます(出典:2025年12月施行 建設業法・入契法改正で変わる工事費内訳書(ビーイング))。

実行予算でも、これら3項目を独立費目として明示・計上する運用に見直すことで、社内のコスト管理と発注者提出書類の整合が取りやすくなります。

労務費のしわ寄せ防止

改正建設業法では、資材高騰時などに労務費が下請にしわ寄せされることを防ぐ趣旨も盛り込まれています。実行予算段階で外注費・労務費に対して過度な圧縮をかけない設計が、コンプライアンス面でも重要になっています。

制度の詳細と要件確認は最新の一次資料を必ず参照してください国土交通省 建設業法改正改正建設業法に基づく「労務費に関する基準」について(建設物価調査会))。

実行予算の失敗パターン7つと回避チェックリスト

現場でよく見る失敗パターンと、回避のためのチェックポイントを整理します。

失敗1|設計図書の読み込みが浅い

質疑応答書・特記仕様書・支給品条件を見落として、材料の重複計上や工事範囲の取り違えが起こる。

回避:ステップ1で設計図書一式にマーキングし、社内レビューを1回挟む。

失敗2|数量拾いを設計数量のままで組む

ロス率・端材率を反映しないと、着工後の材料追加発注で赤字化する。

回避:材料ごとの標準ロス率テーブルを社内で整備し、必ず反映する。

失敗3|単価が古い

半年〜1年前の単価をそのまま入れると、資材上昇局面では大幅な予算オーバーになる。

回避:直近3〜6か月の実勢単価を基準にし、長期工事は途中改訂を織り込む。

失敗4|相見積を取らずに単価を決める

1社見積のみで組むと、単価交渉の余地がなく、割高な発注になる。

回避:主要費目は最低3社の相見積を原則とする。

失敗5|予備費を確保しない

数%〜10%の予備費なしで組むと、想定外事象1つで赤字転落。

回避:会社標準の予備費率を持ち、規模・リスク特性に応じて上乗せする。

失敗6|予実管理をしていない

月次レビューを回さないと、竣工時点まで赤字に気づかない。

回避:月次(理想は旬次・週次)で費目別・工種別に予算対実績を比較する運用を必ず回す。

失敗7|追加変更工事の予算を別立てにしない

追加工事分を本工事の実行予算に紛れ込ませると、本工事の実力が見えなくなる。

回避:追加工事は必ず別立ての実行予算を作成し、承認ルートも別に通す。

ケース別|工種・規模で異なる実行予算のポイント

工種・規模で実行予算の組み方の重点が変わります。

新築建築(RC造・S造)

躯体工事の材料費・型枠労務・鉄筋加工の歩掛精度が利益を大きく左右します。BIM/CIM(建築・土木の3次元モデルに属性情報を持たせる技術)を導入している現場では、モデルベースの数量拾いが精度向上に寄与します。

土木工事(公共工事中心)

公共工事設計労務単価・国土交通省の土木工事共通仕様書・積算基準との整合が重要です。発注者側の設計変更・単価スライド条項への対応も実行予算の前提になります。

リフォーム・改修工事

現場発生数量(既存の解体量・撤去材の処分費用など)が着工前に見えにくいため、予備費を厚めに確保するのが実務です。想定外の隠蔽部の劣化・アスベスト含有材の追加処理などがリスク要因になります。

中小工務店・地場建設会社

大手のような専任の積算部門・予算管理部門を持たないケースが多く、現場代理人が積算・見積・実行予算をひとりで回す運用もあります。この場合、エクセルの標準テンプレートや原価管理ソフトの導入が生産性に直結します。

実行予算スキルはキャリアにどう効くか

実行予算が組めるスキルは、施工管理職としての市場価値の中核の1つです。以下のキャリア効果があります。

現場代理人・監理技術者への登用が早まる

監理技術者は元請工事のうち下請契約金額の合計が一定額以上となる現場に配置される技術者で、1級施工管理技士など特定の資格保有者が担う代表的な要件です。金額基準や配置要件は改定される場合があるため、国土交通省の『監理技術者制度運用マニュアル』の最新版で必ず確認してください(詳細は施工管理 1級 2級 どっち取るべき参照)。監理技術者としての実行予算の管理経験は、大手・準大手ゼネコンでの所長候補としての評価に直結します。

転職市場での評価が上がる

同じ「現場経験5年」でも、「実行予算を自分で組んで、月次予実管理を回した経験」がある人は、転職市場で高く評価されます。特にゼネコン→デベロッパー転職・発注者側転職では、原価管理の実務経験が問われます(詳細は施工管理 デベロッパー 転職 発注者側施工管理 転職)。

独立・フリーランスの選択肢が広がる

自社の実行予算を組める人は、独立後の一人親方・法人化のいずれのルートでも、原価と利益の設計ができる経営者的な立場に立てます(詳細は施工管理 独立 フリーランス 年収)。

実行予算スキルの延長線にある資格・スキル

  • 1級・2級施工管理技士一般財団法人建設業振興基金一般財団法人全国建設研修センター):実行予算・原価管理は第二次検定の経験記述でも評価軸になる
  • 建設業経理士(1〜4級):建設業の会計・原価計算の専門資格。事務系キャリアや管理職ルートで有利
  • BIM/CIM関連スキル:モデルベースの数量拾いと原価管理の連動は、今後の実行予算精度の鍵

よくある質問(FAQ)

Q1|実行予算は誰が作りますか?

現場代理人(現場所長)が中心になり、若手施工管理職・工事課・購買部門の支援を受けて作成します。中小の会社では現場代理人1人ですべて回すケースもあります。

Q2|積算と実行予算はどこが違いますか?

積算は「発注者に提示する価格を決めるための計算」で、実行予算は「利益を出すための現場原価計画」です。積算は入札・見積前、実行予算は契約後・着工前が作成タイミングです。

Q3|実行予算はいつまでに完成させるべきですか?

契約締結後〜着工前までが基本です。着工後に作ると、資材の発注価格や人員配置の最適化が後手に回り、利益確保が難しくなります。

Q4|実行予算はエクセルとソフトのどちらで作るべきですか?

小規模・単発の現場ならエクセルで十分ですが、複数現場を並行管理する会社では原価管理ソフト(ANDPAD/建設ドットウェブ/KANNAなど)の導入が精度と生産性を高めます。過去実績データを標準化しやすくなる点が最大のメリットです。

Q5|予備費は何%くらい取るべきですか?

工事規模・リスク特性・会社方針で大きく異なります。工期が長い、資材変動が大きい、地質・気象リスクが高い現場では厚めに確保するのが実務の考え方ですが、具体的な予備費率は自社の標準や過去現場の実績で確認してください

Q6|実行予算と原価管理はどう違いますか?

実行予算は「事前の計画」、原価管理は「着工後の管理」です。実行予算を基準に、着工後の実際原価をモニタリングし、差異を分析するのが原価管理の役割です。

Q7|設計変更が入ったらどうすべきですか?

追加変更工事分は、本工事の実行予算とは別立てで実行予算を作成します。本工事の実力を見えなくしないためです。発注者との協議のうえ、契約金額の変更・工期延長の合意も必要になります。

Q8|実行予算の目標粗利率はどのくらいですか?

会社・工種・規模で大きく異なります。大手ゼネコンの新築建築で数%〜10%台、リフォーム系で10〜20%台など。社内の目標粗利率が定められているので、まずは自社の基準を確認してください。

Q9|若手で実行予算を任されました。まず何から手をつければいいですか?

過去の類似現場の実行予算・実際原価データを2〜3件手に取り、費目構成・比率・数値の癖を掴むことから始めてください。会社の標準テンプレート・標準率(ロス率・歩掛・予備費率)を確認し、それをベースに当該現場の特殊性を上乗せする流れが実務です。

Q10|改正建設業法(標準労務費)で実行予算はどう変わりますか?

労務費の組み方に「公共工事設計労務単価 × 適正な歩掛」の考え方が持ち込まれ、不当に低い労務費や実態に合わない歩掛設定は基準の趣旨に反し是正指導等の対象となり得ると運用方針で示されています。また工事費内訳書に法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金の明示が求められる方向で、実行予算の費目立ても見直しの余地があります。施行時期・適用範囲・具体運用は項目ごとに異なり、順次整備が進んでいるため、国土交通省の一次資料で最新の要件を確認してください。

Q11|実行予算はどのくらいの頻度で更新(改訂)しますか?

月次で予実管理を回すのが実務の基本で、差異が想定を超えたタイミングで改訂します。大きな設計変更・追加工事・単価の急変があれば、都度改訂します。

Q12|サブコン・専門工事会社でも実行予算は作りますか?

作ります。元請から請け負った下請工事について、材料費・自社労務費・機械経費・現場管理費を積み上げて実行予算を組むのがサブコン側の原価管理の基本です(サブコンの詳細はサブコン ランキング 年収)。

Q13|経審(経営事項審査)と実行予算に関係はありますか?

経審は建設業者の経営状況を客観評価する制度で、直接的に実行予算とは連動しません。ただし、財務状況(Y評点)は工事ごとの利益の積み重ねであるため、実行予算の精度が高い会社は結果的に経審スコアも安定する関係にあります。詳細は国土交通省の経営事項審査で確認してください。

まとめ

  • 実行予算とは、工事受注後に組む「現場ごとの原価計画」であり、積算(受注時の価格計算)とは目的が異なる
  • 内訳は直接工事費(材料費・労務費・直接経費)+間接工事費(共通仮設費・現場管理費)+一般管理費の3階層で整理
  • 作成は契約後〜着工前までに完成させ、社内決裁で利益目標を確定
  • 精度の鍵は「設計数量と所要数量は一致しない」を前提に、過去実績の歩掛・材料ロス率・単価トレンドを反映すること
  • 改正建設業法・標準労務費・工事費内訳書の明示3項目(法定福利費/安全衛生経費/建退共掛金)は、実行予算の積み方に反映する余地があるため、最新の一次資料で要件を確認する
  • 実行予算スキルは、現場代理人・監理技術者・所長候補・発注者側キャリア・独立ルートいずれでも市場価値の中核

実行予算を自分で組める施工管理職は、社内でも転職市場でも希少人材です。まずは自社の過去現場の実行予算を2〜3件読み込み、費目構成・比率・数値の癖を掴むところから始めるのが実務の王道です。より広いキャリア設計を考えたい方は、施工管理のキャリアパス施工管理の年収を上げる方法施工管理 転職もあわせて参照してください。判断に迷ったときは、タテルートの無料キャリア相談(LINE)で情報整理する選択肢もあります。


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